前回は、有酸素運動・レジスタンストレーニング・ストレッチの3種類の運動があり、各々を組み合わせて運動療法を行うことをお話ししました。今回は、話の核心である「患者さんそれぞれに合った運動とは」についてお話いたします。まず前提として、患者さんごとに病状や筋力・体力が異なっていることから、適切な運動はそれぞれの患者さんで異なるということがあります。だからこそ、自分の病状で運動してもいいのだろうかという疑問や恐怖が先に立ってしまい、結果なにもできないという事になってしまうと思います。実際は患者さんそれぞれに適した運動の強さを決定するために、様々な方法があります。今回は特に有酸素運動を例にとって、運動強度の決定方法をお示しします。有酸素運動の運動強度の決定方法有酸素運動といえば、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどのイメージがあると思います。それぞれ個人における有酸素運動の強さを決める方法を3つ挙げさせていただきます。①心拍数から決定する②自覚的運動強度(症状)から決定する③心肺運動負荷試験を行い、厳密な運動処方のもとで決定する最も客観的で理にかなっているのは③の心肺運動負荷試験に基づく運動処方です。ですが、そのためには心肺運動負荷試験を行う必要があり、なかなかにハードルが高いです。当院では心肺運動負荷試験を行って、心疾患の方の適切な運動療法を検討することもしていますが、心臓病、肺疾患などの症状・重症度の評価のために行う検査ですので、どんな方でもするわけではありません。心肺運動負荷試験による運動処方については、最後に簡単にご説明します。①心拍数から決定する以下の方法で目標心拍数を決定し、30分程度その心拍数を維持して運動できるとよいです。・簡易法 単純に安静時心拍数+30回/分(脈が遅くなる薬を内服中の方は+20回/分)を目標に運動する方法です。簡単に決定できますが、病状と体力は人それぞれですから、一律このように決定することはあまりお勧めできません。さらに不整脈がある方、ペースメーカーがある方はこの方法は難しいです。・カルボーネン法目標心拍数=[(220-年齢)ー安静時心拍数]×運動強度+安静時心拍数 の式で求めます。運動強度は0.3~0.6の間で決定し、年齢や病状によって代入する値を決めます。70歳未満の健康でほとんど障害のない方は0.6程度でよいと思いますが、病気がある方は主治医に相談して考えるとよいと思います。例) 「65歳 狭心症のカテーテル治療後だが、心臓機能は良好で症状なく安定している。安静時の心拍数が60回」というの方の目標心拍数は〔(220-65)ー60〕×0.6+60=117になりますので、だいたい117回前後の脈になるような負荷で30分程度運動するという事となります。②自覚的運動強度(症状)から決定するボルグ指数という目安を用いて決定します。↑これはかなりあいまいな決定法ですが、(自分に正直な方であれば)心肺運動試験を用いた決定方法にかなり近い印象はあり、有用です。さらにトークテストという方法もあります。運動中くらいに30秒ほどの文章を比較的ゆっくりと読んでいただき、少し息が切れる程度で読める負荷を適切な強度とするものです。こちらも、有用な決定方法です。③心肺運動負荷試験で決定する最も確実な決定方法です。心肺運動負荷試験は酸素摂取量(VO2)と二酸化炭素の排泄量(VCO2)を測定しながら運動していただく検査です。嫌気性代謝域値(AT)という有酸素運動から無酸素運動に切り替わり始めるポイントを測定して、それをもとに運動の強度を決定します。有酸素運動の範囲内であれば、不整脈や狭心症などの事故は起こりにくく、その範囲内で効率の良い負担を決定することができます。この検査は説明しだすと分量が膨大になってしまうので、別の機会にご説明させていただくと思います。以上3つの方法をご紹介しました。これらを用いてウォーキング、ジョギングなどの強度を決定することで、より安全性が高く効率の良い運動を行うことができます。ご自分できめる場合は②の方法が最も簡単ですが、不安のある方は主治医にご相談いただくとよいと思います。全4回にわたり運動療法についてお話してきました。テーマが大きすぎるゆえにかなり端折っております。わかりにくかったら申し訳ありません。今回は心筋梗塞を例にご説明しましたが、適切な運動をすることで高血圧、糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病や、腎臓疾患など多くの病気の予防になり、生活としての質は確実に上昇します。皆さんの運動に対するモチベーションの一助になれば幸いです。