こんにちは。当院では、ほとんどの患者さんに聴診器を用いて肺や心臓などの音を聴く『聴診』を実施しています。意外なことに、ある患者さんに「この聴診はなにか意味があるんですか?ほかの病院では聞かれたことが無いです」と言われたことがあります。学校健診ではかならず聴診器をあてますので、聴診器を当てられたことがない方は日本にはいないはずですが、一般の診療において、聴診器を使わないことも最近はあるようです。自分が子供の時から医師と言えば聴診器を持っているのが当たり前のスタイルで、そのような質問をされること自体驚いたのですが、最近は専門の細分化もあって、特に聴診の有用性が低い診療科によっては聴診器は必須アイテムではなくなっているようなのです。そうは言っても、私の専門とする循環器内科や内科の領域では聴診は必ず行う事だと思っていますし、そうするように教育を受けてきました。今回は、診察に行くと毎回される聴診には意味があるの?という疑問にお答えする形で、聴診の意味や必要性についてお話ししたいと思います。ちょっと脱線しますが、そもそも聴診器をつかった診察は、19世紀のフランスの医師ルネ・ラエンネクが発明しました。それまでも医師が心臓や肺の音を聴くことはあったのですが、驚くべきことに当時の医師は直接耳を当てて聴診していたようです。ルネ・ラエンネク医師が発明した聴診器は木製の筒であったようですが、直接耳をあてるより鮮明な音が聞こえたようです。その後両耳をつかって聴診する双耳式聴診器が発明され、私たちがよく知る形になったといわれています。最近は、小さい音も拾うことができる電子聴診器や、無駄な音を抑えて生体音を強化してデジタル化する聴診器(録音したり、データを遠隔に送ったり遠隔診療にも役立ちます)も発売されており、聴診器もどんどん進歩しています。ここで、「聴診はなんのためにするのか」という最初の疑問に戻りたいと思います。聴診は、大きく分けると胸部聴診(心臓と肺や頚部)と腹部の聴診がありますが、今回は私の専門である心臓にかかわる胸部聴診についてお話ししたいと思います。胸部の聴診で主に聴いているのは「心臓の音」と「肺の音」です。まず、心臓の音のお話をします。心臓の音といえば、ドキドキ、ドックンドックンなどといった擬音でよく表されます。聴診器を心臓の位置にあてるとそのような音が聞こえるのですが、実はあの音は心臓の中に血が流れる音ではありません。正確に言うと、心臓が動いて発生はするのですが、音自体は心臓の部屋の扉である「弁」が閉じるときの音です。ドックン(この擬音が正しいかどうかはさておいて)のうちの、「ドッ」の部分はⅠ音といって、心臓の僧帽弁と三尖弁という左右の心房と心室の間の扉が閉じる音です。次の「クン」の部分はⅡ音といって、大動脈弁と肺動脈弁という左心室と右心室から血管につながる扉が閉じる音です。そのドッ・クンの聞こえ方と、Ⅰ音とⅡ音の間、つまりドッ・クンの間にある音(雑音といいます)を聞き分けて、心臓の働きや弁膜症のあるなしを聞き分けています。心臓が弱っていたりすると、Ⅰ音、Ⅱ音以外にも音が聞こえることがあり、それらはⅢ音、Ⅳ音といわれます。それらは弁の音ではなく、簡単に言うと弱った心臓に血流が当たる音です。4つの音がすべて聞こえると、馬が走っているように聞こえるためギャロップ リズムと言ったりします。Ⅲ音やⅣ音が聞こえる場合は心臓に負担がかかっているの可能性が高いのですが、心臓の負担は水分や塩分量、気温などの外的要因で大きく変わったりします。たとえば毎回聴診していると、たまにⅢ音が聞こえる方なんかもいらっしゃいます。心臓の状態によって、聞こえたり聞こえなかったりするため、その方の心臓の状態の把握に役立ちます。毎回採血や心エコー検査をしているならば聴診しなくても心臓の状態把握は可能ですが、当然そんなわけにもいかないので、聴診によって状態変化を判断しているわけです。実際、心不全の患者さんに心不全の薬を飲んでいただいて、次の外来で心音がよくなっている場合がありますが(その場合はたいていBNPという心臓の採血の値もよくなっていたりします)、身体所見として明らかに改善が分かるというのは、採血結果で分かるよりうれしかったりします。また、心音を聴いていると、不整脈が出ていることにも気がついたりします。無症状の心房細動や期外収縮の方は、実は結構いらっしゃいます。そういった方の不整脈にいち早く気がついて、早めに対応できるという点でも、聴診は役に立ちます。長くなってきたので、次回に続きます。次回は、心音の中でも心雑音についてお話しします。