こんにちは。前回は、聴診の中でも、心音についてお話ししました。心音には、Ⅰ音とⅡ音があり、それぞれ心臓の中の弁が閉じる音です。今回はそれらとは違う音である心雑音についてお話しします。心雑音はⅠ音とⅡ音の間に聞こえる音です。弁膜症や、心臓に穴が開いていたり、奇形のために本当はない血管があって聞こえる音だったりします。ドッ・クンの間に聞こえるため、ドッ・シャー・クン、であったり、ドッ・クン・シャーのように、聞こえます。これも、聞こえるタイミングや聞こえ方、聞こえる位置によって弁膜症が大動脈弁のものなのか、僧帽弁のものなのか、それとも心臓に穴が開いている音なのか、などを判断します。例えば、大動脈弁狭窄症という弁膜症の場合、左心室から大動脈への出口の扉にあたる大動脈弁が開きにくくなることによって発生する雑音なので、心臓が収縮するタイミングで発生します。心室が収縮するタイミングはⅠ音とⅡ音の間なので、ドッ・シャー・クンと聞こえます(収縮期雑音といいます)。僧帽弁閉鎖不全(逆流)症という弁膜症は、左心室から左心房に血が逆流してしまう病気で、これも収縮期に発生するので収縮期雑音です。大動脈弁狭窄症と僧帽弁閉鎖不全症は同じ収縮期雑音が聴こえますが、聞こえ方も少し異なるうえに、それぞれの弁がある位置で聞こえますので、音が強い位置は異なります。聴診のときに、何か所で音を聴いているのはこのためです。聞こえる場所によって、どの弁の弁膜症であるかを推定しているのです。大動脈弁と僧帽弁の雑音を聞き分けるために頚部の音を聴くこともあります。大動脈弁の雑音であれば、大動脈から頚部に音が伝わって聞こえるためです。収縮期雑音が聞こえたとしても、僧帽弁の音であれば大動脈まで伝わらないため、頚部には聞こえません。それに対して、大動脈弁の閉鎖不全(逆流)症という弁膜症は、心室が拡張するときに起こる雑音なので、拡張期雑音と言います。聴診は音が聞こえる場所、タイミング、聞こえ方が大事です。高血圧で長年私が診察している患者さんであっても、徐々に弁膜症が悪化してくる方もいらっしゃるので、そのような方はあるとき急に雑音に気がつくこともあります。そのような場合は心エコー検査をして弁膜症の有無を確かめたりします。時には風邪で受診された患者さんに心雑音があることに気がついて、心エコー検査をしてみたら弁膜症であったという事もあります。弁膜症は進行していく病気ですが、早めに気がつく事で、悪化する前に手を打てる可能性があります。今回は詳しくお話ししませんが、肺の音も様々なことがわかります。特に、細菌性・ウィルス性肺炎や、間質性肺炎、気管支喘息などは肺の音が診断のヒントになることがあり、さらには重症度を推定したり、治療の効果を判定するのに役立ちます。このように、私たちが聴診しているのは心臓や肺の病気の発見や重症度の評価のためで、胸と背中で何か所も音をきいているのも、それぞれの病気の場所を特定するためです。ところで、聴診器の発明から聴診法の確立までの大偉業を成し遂げたラエンネクは若い時から結核に苦しみ、多くの業績を残しながらも45歳で亡くなっています。奇しくもこれを書いている私も現在45歳です。医学生時代からあたりまえのように聴診器を使用している私ですが、この事実に身が引き締まる思いです。先人の知恵に敬意を忘れず、精進していきたいと思います。