こんにちは。前回は麻疹(はしか)についてお話ししました。最近たびたび感染が報道されており、比較的緊急度合いが高い話題と考えてまずその話題をお話ししましたが、麻疹は麻疹ウィルスというウィルス感染症です。そもそも感染症の原因はさまざまで、細菌、ウィルス、寄生虫や真菌などがありますが、私たち日本人の日常に最も関係する主要な感染症としてウィルス感染症と細菌感染症が挙げられます。ウィルスと細菌は同じような感染症を引き起こす微生物でありながら、その特徴は大きく異なります。今回から2回に分けてウィルス、細菌の歴史からその違いまでお話ししたいと思います。ウィルスと細菌と人間の、長いおつきあい初期の人類の時代、感染症は野生動物の食肉が原因の寄生虫や細菌・ウィルス感染が主体であったと考えられています。現代ほど衛生環境が整っていない上に、感染症に対する意識がない時代ですから当然といえば当然です。その後社会の発展に伴う人口の密集・移動に伴って、感染の方式は変化していき、動物から人間に感染するだけでなく、社会の中で人間から人間に感染するようになっていきます。社会の広がりに伴って、ペスト、梅毒、天然痘、コレラなどがいわゆる「パンデミック」という世界的大流行を引き起こす事になります。一度は聞いたことのある上のような感染症にくわえ、近代に入ってからのパンデミックといえばインフルエンザ(スペイン風邪)、SARS、そして記憶に新しい新型コロナウィルスなどがあります。初期の光学顕微鏡で見つけられたのは細菌(と寄生虫、真菌)で、ウィルスの発見は1900年代に入って電子顕微鏡が発明されるのを待つこととなります。顕微鏡が発明されるまでの、感染症の原因のわからなかった中世のパンデミックは恐怖でしかなかったと想像できます。1798年に人類初のワクチンである天然痘のワクチンが発明されてのち、感染症の予防、治療法が一気に発展します。そして1928年のペニシリン(抗菌薬)の発見があり、人類は細菌感染症への大きな武器を得ることとなりましたが、昨今抗菌薬の多用による細菌の耐性化などが目立っており、まだまだ細菌感染症と人類の戦いは続きそうです。かいつまんで感染症の歴史をお話ししましたが、細菌感染症はともかくウィルス感染症についての詳細がわかってきたのはごく最近の話です。細菌感染症に対する抗菌薬の使用法やその体系化などされてきたのも比較的最近で、私が研修医だった2007年ころには抗菌薬いかに考えて使っていくかが大きなテーマとして盛んに議論されていました。今でも抗菌薬の適正利用など、まだまだ医療の現場でも問題は山積です。抗菌薬≒抗生物質話はずれますが・・・今回と前回のお話で「抗菌薬」とお話ししていますが、抗生物質や抗生剤、などのいい方で聞いたことある方も多いと思います。実際に正しくは「抗菌薬」「抗生物質」が正しい言い方です。「抗菌薬」と「抗生物質」も厳密には違います。抗菌薬は人工的に作られた薬剤も含む概念であるのに対し、抗生物質は自然に作られたもので抗菌薬の中の一部です。今回の表題では抗生物質と書いていますが、最も馴染みがある言い方だと思ってそのように書いています。話を戻しまして、先ほど出てきたパンデミックの原因となった感染症でも、梅毒、ペスト、コレラは細菌、天然痘、インフルエンザ、SARS、新型コロナウィルス感染症はウィルスが原因です。前回お話しした麻疹はウィルス感染症になります。ウィルス感染症と細菌感染症、どちらも感染症の原因なのですが、原因となる微生物の特徴は異なります。その違いについて、次回詳しくお話しします。