こんにちは。前回は細菌とウィルスの歴史についてお話ししました。今回は、細菌とウィルスの違い、そして抗生物質(抗菌薬)がどうしてウィルスには効かないのかについてお話ししようと思います。※前回では抗菌薬と記載していますが、今回はわかりやすくするためにすべて抗生物質と記載します。抗菌薬と抗生物質の厳密な違いについては前回をご覧ください。細菌とウィルス細菌とウィルスは、人間に対して感染症を起こすという点では同じですが、姿かたちは全く異なります。単純に大きさだけ言っても・・・細菌はマイクロメートルの単位の大きさですので、学校の理科室の顕微鏡(光学顕微鏡)で発見することができますが、ウィルスはその100分の1~1000分の1くらいの大きさでナノメートルの単位になりますので電子顕微鏡が必要になります。次に細菌とウィルスについてそれぞれ細かくお話しします。細菌は単細胞生物細菌は原核生物という、細胞に「核がない」生物です。人間は真核生物であり、細胞の中には核がありその中にDNAが収納されています。細菌などの原核性物は、細胞の中にDNAがむき出しの状態で存在しています。細胞には細胞膜があり、いわゆるその細胞だけで存在する「単細胞生物」で、人間のような真核生物の細胞と比べて単純な構造です。丸い球菌、細長い桿菌、らせん状のらせん菌などがいて、それらの細胞の壁の一部を色付けして、光学顕微鏡で観察して種類を同定する方法で分類したりします。細菌感染症には抗生物質細菌を倒すためには抗生物質を用います。抗生物質は、細菌の細胞の壁を標的としていたり、DNAの合成を阻害したり、など細菌の発育に重要な酵素や構造に対して効果を発揮します。基本的に人間の細胞に害はないように設計されています(といっても副作用は存在しますが)。抗生物質を使用し続けてきたことで細菌も進化して強くなってしまっています(耐性化)。そのため、強い抗生物質ばかりをむやみに使わず、疑われる菌に対して適切な薬の選択をしていく事で耐性化を防ごうとしています。ウィルスは一人では生きていけないそれに対してウィルスはそれ単体では生きていけない存在で、DNAやRNAが外殻と言われる壁のみ(+被膜をかぶっているもの)で包まれた構造です。細胞ではないため、他の生きた細胞の中でしか増殖することができません。そもそも生物といっていいのか微妙な存在、それがウィルスです。ウィルスは他の生物の細胞表面のレセプターにくっついて感染していくため、そのレセプターが合うかどうかで、感染する細胞が決まっています。ウィルス自体を培養することはできませんが、レセプターがある(ウィルスに感受性がある)細胞に感染させて培養することはできます。電子顕微鏡で見ることができますが、実際の医療の現場でウィルスの存在を確定させるためには抗原検査(ウィルス特有のたんぱく質を検出)やPCR法(ウィルスの遺伝子をふやして検出)、ウィルスに対する抗体検査(ウィルスに対して出来た抗体を検出)を行います。ウィルス感染症の治療法抗ウィルス薬はウィルスがヒトの細胞に侵入・増殖する経路を阻害する薬です。ウィルス感染症は細菌感染症ほど治療薬があるわけではありません。ウィルス自体はヒトの体の細胞の中にすぐ入ってしまい、ヒトの細胞を利用して増えていくため、ウィルスを倒す行為がヒトに対してダメージを与得る可能性があり開発が難しいこと、が理由とされています。治療薬があるウィルスはインフルエンザウィルス、ヘルペスウィルス、HIVウィルス、B型肝炎、C型肝炎ウィルスなどですが、治療薬の開発が難しいため、実際はワクチンによる発症予防・重症化予防が中心となっています。かぜに抗生物質がきかない理由上のように、細菌とウィルスは構造自体が異なります。細菌を倒すために作られた抗生物質ではウィルスを倒すことはできません。ウィルスには細胞構造が無いからです。かぜはウィルス感染症ですから、抗生物質は効きません。つまり、かぜ、ノロウィルス、インフルエンザや新型コロナウィルス感染症に対して抗生物質は処方されることはないのです。と言っても、かぜで抗生物質を飲んだら楽になった事がある!という経験がある人もいると思います。それは、かぜというウィルス感染症に細菌が重ねて感染して悪化した場合や、かぜだと思っていたものが実は細菌感染症であった場合が考えられます。もちろんかぜは自然に良くなっていく感染症ですから、ちょうど良くなるタイミングでたまたま抗生物質を内服しただけという可能性もあります。かぜなのか細菌感染症なのか、実際は非常に判断が難しいことがあり、しっかりとした診察や検査の上で考えていく事となります。感染症の歴史、ウィルス・細菌について簡単にお話ししましたが、いかがだったでしょうか。ですが感染症は本来こんな短い文章で語りつくせるものではありません。そして対策や治療は非常に難しいです。進化し続ける病原体に対して我々も常に進化が必要で、私もまだまだ研鑽を続けなければ!と思っています。